LT6040ST908の諧調彫刻 ①

株式会社リンシュンドウスタッフの岡本です。今回はRSD-SUNMAX-LT6040ST908を使って、諧調出力が綺麗にできる設定を探りました。

諧調出力は、画像ファイルをインポートして彫刻加工するときに、制御用ソフトウェアLaserWorkV6の加工設定にある「直接出力」にチェックを入れるとできます。薄い色を弱く、濃い色を強くレーザー出力して、画像の色の濃さに応じて加工を行う機能です。

ところでこの諧調出力ですが、大ざっぱな加工設定で加工すると、画像の色と実際の加工結果が一致していなくて、きれいに諧調が表現できません。白 ⇔ 黒 のグラデーションが綺麗にできません。

原因はいくつかあります。

① 加工素材に対する加工設定が適切ではない。

② レーザー出力値が、出力設定値と一致しない。

③ レーザー出力の応答遅れ

今回のブログは②に焦点を当てて試行します。
①はどのレーザー加工にもあり得る普遍的な問題で、適切な設定出しで解決できます。
③は水冷Co2レーザー管では避けがたい問題で、基本的には加工速度を遅くすることや、走査方法を双方向から単方向に変更することによって対処できます。ただし、①の適切な設定とは両立しない場合があり、また加工時間も長くなるなど難しいところです。

それでは「② レーザー出力値が、出力設定値と一致しない」について、考察します。

どのようにレーザー出力値と出力設定値が一致しないのかを確認するためにレーザー出力計を使い、レーザー出力値を測定しました。
設定値を5%刻みに変更させて、実際のレーザー出力値を測定しています。機体は毎日ではないですが、かなり頻繁に使用されている機体で、レーザー管自体はそれなりに経年劣化しているはずです。

測定結果

RSD-SUNMAX-LT6040ST908-40Wの定格出力は40Wです。測定してみると、経年劣化しているにも関わらず、レーザー管直後で50W程度まで上がっています。ただし、焦点レンズを通過してレーザー照射口から出たレーザー出力値は、光路内でレットポインターミラーや反射鏡で出力がロスしているのでもっと低くなります

出力設定値とレーザー出力実測値については過去のブログでも検証しています。傾向としては同じで、出力設定値が低いほど急激にレーザー出力が上がり、出力設定値が高くなるとレーザー出力がなだらかになります。また、程度の差はあれ、出力設定値が高くなると、実際のレーザー出力値が不安定になります。

諧調加工がうまくできない原因は、上表を見てもわかるように設定値と実際の出力が比例していないために発生します。

検証

加工設定を変更して、適切な諧調彫刻ができるように試行します。
試行データは下図の画像を使用します。諧調彫刻を各四角形はすべて10mm角です。、

加工素材はMDFボードを使用します。

※ 一口にMDFボードと言っても、その実態は製造工程や材料などによって品質が大きく異なるため、レーザー加工を行った場合の結果は使用するMDFボードにより大きく変化します。また周囲湿度の影響によるMDFボート乾燥度によっても結果は変化します。

結果

① 出力範囲を最大限にとった場合

最低出力 : 0 %
最高出力 : 99 %
スピード : 300 mm/s
走査方法 : 双方向
走査間隔 : 0.05 mm

加工時間は4:06でした。
35%以上は徐々に彫りが深くなりますが、色味が同じです。

② ①のスピードを600 mm/sに変更

最低出力 : 0 %
最高出力 : 99 %
スピード : 600 mm/s
走査方法 : 双方向
走査間隔 : 0.05 mm

加工時間は2:48でした。
45%以上は徐々に彫りが深くなりますが、色味が同じです。

③ ②の走査間隔を0.075 mmに変更

最低出力 : 0 %
最高出力 : 99 %
スピード : 600 mm/s
走査方法 : 双方向
走査間隔 : 0.075 mm

加工時間は1:52でした。60%以上は徐々に彫りが深くなりますが、色味が同じです。

④ ③の最小出力を5 %、最大出力を 40%に変更

最低出力 : 5 %
最高出力 : 40 %
スピード : 600 mm/s
走査方法 : 双方向
走査間隔 : 0.075 mm

全体的に色味が変化し、諧調が表現されています。

⑤ ④の最大出力を 50%に変更

最低出力 : 5 %
最高出力 : 50 %
スピード : 600 mm/s
走査方法 : 双方向
走査間隔 : 0.075 mm

85%以上は徐々に彫りが深くなりますが、色味が同じです。

⑥ ④の最小出力を 2%に変更

最低出力 : 2 %
最高出力 : 40 %
スピード : 600 mm/s
走査方法 : 双方向
走査間隔 : 0.075 mm

5%の四角は、全く変色していません。

⑦ ⑥の最小出力を 4%に変更

最低出力 : 4 %
最高出力 : 40 %
スピード : 600 mm/s
走査方法 : 双方向
走査間隔 : 0.075 mm

諧調は良いですが、5%の四角形は、右と左で濃淡が発生しています。これはレーザーが出るか出ないかのギリギリのところで、レーザー出力の応答が不安定になっているために発生しています。
このような現象はレーザー管の個体差により発生する場合があります。

⑧ ⑦の最小出力を 4.1%に変更

最低出力 : 4 .1 %
最高出力 : 40 %
スピード : 600 mm/s
走査方法 : 双方向
走査間隔 : 0.075 mm

全体的に諧調が出るようになりました。

 

このように加工設定を変化させながら実際の仕上がりを確認し、適切な加工設定値を見つけれることができれば、諧調が表現できるようなります。

※ レーザー管の個体ごとに若干のばらつきがあり、またレーザー管、反射鏡、焦点レンズのコンディション、光路の調整具合により、上記設定で加工を行っても、機体ごとに結果が異なります(傾向はおなじなので、上記設定をもとにして設定出しを行ってください)。

適切な諧調表現を得るためのポイントは、出力設定値と実際のレーザー出力値が比例している範囲を使用する、ということです。
また、加工素材に依存しますが、出力の変化が視覚的に判別できる範囲を使用するということも重要です。今回は焦げ跡が判別しやすいMDFボードを使用しましたが、これがアクリル板だった場合、また話が違ってきます。アクリル板は焦げ目がつかないので、諧調は彫刻の深さで表現することになりますが、その場合は濃い部分をより深く彫るために、加工スピードをかなり遅くして加工することになると思います。

LT6040ST908の諧調彫刻 ② に続きます。